簿記知識とFASの密接な関連性。実務でいかに役立つか、書類選考対策も併せて解説。

FASスキル

FAS(フィナンシャル・アドバイザリー・サービス)業界は、財務・会計にまつわるプロフェッショナルサービスを提供します。その専門性の根幹にあるのは企業会計、すなわち簿記の知識です。

この記事では、簿記知識の習得方法から、なぜ必要か、FASの仕事に実際どのように役立つのかを解説します。

FASの仕事になぜ簿記の知識が必要なのか。実務にどう役立つか。

FASの仕事内容は、財務・会計を中心に、M&Aや企業再生等、多岐にわたります。
※仕事内容の詳細について、(関連記事)FAS(フィナンシャル・アドバイザリー・サービス)の概要に詳細にまとめています。

それぞれの仕事内容は、対象・内容は異なれど基本的に財務諸表と税務申告書の内容を中心にコンサルティングサービスが提供されます。

代表的な事例や業務内容ごとに例示します。

財務会計・簿記は、もはやFAS社内の共通言語であり共有概念

FAS社内において、財務会計・簿記は、もはやFAS社内の共通言語であり共有概念です。

先輩社員からは、当然分かっているものという感覚で簿記ワードを投げかけられます。相手も悪意があるわけではなく、会計ワードが通じる状態がもはや普通になっているのです。会話が通じなければ、直ちに簿記2級の取得を指示されるのが目に浮かびます。

採用面接においても同じような会話になる可能性もあります。簿記に関連するワードは、一通り理解しておくべきでしょう。

財務デュー・ディリジェンスと簿記知識の関連

M&A等のプロセスの中でFASが実施するデュー・ディリジェンス(DD)は、FASファームの主要なサービスラインです。対象企業を徹底的に調査し、買収に際してのリスクを洗い出す作業です。

DDの種類は、法務、財務、人事等、多岐にわたります。FASが受け持つのは財務DDになるので、損益計算書・貸借対照表がメインの調査対象となります。

貸借対照表上の資産・負債が会計基準に従いきちんと計上されているか。特に簿外債務が存在しないか。損益計算書上に収益費用が期間対応して計上されているか。

こういった適正性を判断するためには、そもそも簿記の知識がないと話になりません。また、上述の通り会計基準に関する知識が必要になります。そのため、簿記2級の範囲でも知識としては不十分ということになります。

財務モデリング業務と簿記知識の関連

財務モデリング(財務モデルの作成)は、FASの様々な業務の根幹ともいえる専門技能です。一人前のFASコンサルタントとなるためには登竜門ともいえる業務です。

利益・財政状態のシミュレーションを行うものであり、若手はこの財務モデリングとひたすら向き合うことになります。

モデルの制作業務にあたっては、貸借対照表(BS)・損益計算書(PL)を財務会計にしたがい連動させて計算を組み込みます。BS・PLの構造、繋がりが分かっていなければ手のつけようがないのは言うまでもありません。

仕訳等の基礎知識に加え、実践的な仕組み理解が求められるのです。

FAS転職と業務で必要な財務会計知識の実態

FASは財務会計のプロフェッショナルです。高度かつ広範な会計の知識を求められるのは当然ですが、担当する仕事の領域によって必要知識が若干異なります。

本項では、全般的な点から入り、更に業務内容にブレークダウンして具体的に見ていきましょう。

基本的には、財務会計の全範囲の知識が必要

簿記2級レベルでは、例えば退職給付債務やリース取引の詳細などは範囲外ですが、実務では「1級勉強していないから知りません」で通じるはずもありません。

プロフェッショナルとして、会計全体の各処理がどのようなものなのか、最低限概要だけでも理解する必要があります。

入社段階ですべてを理解している必要はありませんが、なるべく早めに学習に手を付けておくほうが望ましいと言えます。

書類選考前に、できれば日商簿記3級か2級がほしい。

特に書類選考は形式的に行われますので、検定などで客観的に財務会計の知識を示せることが重要です。

最低でも日商簿記3級、できれば2級はほしいところです。2級を持っていたとしても、入社後に会計全体や会計基準等の勉強をすることが前提となります。

ちなみに筆者は資格自体は2級しかもっていませんが、応募前に簿記1級の勉強に着手していましたので、入社後もスムーズに業務に移行することが出来ました。

上場企業を対象としなければ、連結会計の深い知識は必須ではない

FAS業界内には、非上場の中堅・中小企業を対象とするファームも多く、そういった案件では単一企業会計で十分なケースも多いです。

また、連結会計の緻密な計算結果するメリットが薄いケースも多く、「債権債務、収益費用の相殺をする」程度の知識でもなんとかなっているコンサルタントは多い印象です。

FAS入社のための簿記勉強の進め方

ここまで述べてきた通り、日商簿記の試験勉強を主軸に進めれば問題ありません。
(ちなみに「日商簿記」とは、日本商工会議所等が主催する簿記技能検定です。国内における簿記能力測定のデファクト・スタンダードと言える存在です。)

特に1級は会計基準・原価計算基準全体をカバーする試験になります。ここまで習得すれば入社後も即戦力として活躍できるでしょう。(ただし、1級は高難易度ですので、無理する必要はありません。合格できれば加点要素になる、といった程度の認識で問題ありません。)

1級合格が無理だとしても、2級までを早めに取得し、1級の範囲まで興味を持ち早めに勉強しておくことが、FASで活躍する一つの秘訣と言えます。

3級か2級か。FAS入社目的なら2級スタートがおすすめ。

日商簿記3級か2級か、どちらから始めるかで迷う場合、3級は飛ばして2級から受験開始して問題ありません。

3級は基礎的な内容であり受かるのも簡単です。ただ、いずれにせよ2級まで学習を進めないと、FAS入社後の業務に支障が出るレベルと言えるからです。

尚、試験範囲は、3級は商業簿記の基礎知識、2級は商業簿記と更に工業簿記も加わり、内容も実践的になります。FAS業務を念頭に置くと工業簿記の知識も必須ですので、やはり2級の学習がオススメです。

急ぎたい方。資格学校の講座を活用しましょう。

昨今はコロナ禍もありオンライン講座が大変充実しています。筆者の体験談としても、独学に比べ高い学習効果が期待できると言えます。

簿記初心者なら、先ずは誰かに習って簿記2級を目指すべし。

簿記に限らず、イメージをつかめるまでの入り口の学習が一番大変なものです。

筆者自身もeラーニングの講座を利用して学習を進めたのでスムーズでした。

基礎的な簿記の心得がある方。1級習得を念頭に、高度な会計知識習得を進めましょう。

FASファーム入社後は多忙となり、勉強する時間が十分に取れない可能性も考えられます。できるだけ事前に学習を進めることが好ましいと言えます。

特に2級の応用~1級範囲ともなると、学習領域・内容共にかなり高度になります。筆者の経験を踏まえても、何らかの資格スクールの授業を活用したほうがスムーズでしょう。

受講を検討するなら、先ずは資料請求をしてみて、内容や価格を検討してみましょう。

職歴が不利なら、簿記知識がないと選考の土俵にも乗れない。今からでも勉強を始めよう。

筆者自身もIT系からの転職でしたので、相当に不利な状況でしたが、幸いにも簿記2級を取得済みで、1級の勉強もほぼ終わらせていた状況でした。

当時を振り返ると、簿記の勉強をしていなかったら選考の土俵にも乗れなかっただろうという感触ででした。

少しでも可能性を高めるためにも、早めに勉強を始めるのがよいでしょう。

簿記講座なら、会計士界でもプレゼンスを発揮するクレアールがオススメ

FAS業界では、公認会計士の出身資格学校に関する談義が頻繁に耳をしますが、クレアールの名はその中でもよく聞くブランドです。

実際、簿記・会計の分野に特に力を入れていることで有名です。まずは無料で資料請求をしてみて、学習を進めるイメージを掴むとよいでしょう。

1~2年スパンで進めるなら、独学も十分に可能。TACのテキスト・問題集が鉄板

筆者自身も、FAS転職は2年くらいの計画で進めて実現させました。当時転職1年目だったので、職歴3年になるまで現職で耐えて2年後に、という意気込みでした。そのため時間的余裕はありましたので、1級の勉強で本格的に詰まるまでは独学で進めていました。

独学なら、TACのテキスト・問題集がオススメです。筆者自身も、このシリーズをボロボロになるまで使い込んだ思い出があります。

先ずは「合格テキスト」を入手して学習を開始しましょう。 商業簿記、工業簿記の2本組です。まずは商業簿記から始めるといいでしょう。簿記初心者からでも理解できる内容となっています。

Bitly
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1級の場合はこちら。

1級は範囲が広いため、商簿工簿各3冊の計6冊構成です。いずれも(1)から学習を開始すれば問題ありません。

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参考:簿記に留まらず、更にFAS業界への見識を高めるための書籍

FAS業界は高度な専門性が求められる職業です。それゆえ事前に知識を得ておくことは、面接対策と入社後の活躍の両方の観点で重要です。

とはいえ業界未経験では書籍選びも難しいため、以下の関連記事に、業界経験を生かしてM&A、バリュエーション、DD、管理会計等、主要なFAS業務範囲別にオススメ書籍をピックアップしております。

簿記の勉強と並行して、余裕があれば着手してみれば、より成功率は高まるはずです。

(関連記事)FAS転職希望者が事前に読むべき書籍。業務分野別に現役コンサルタントが紹介。

FASのキャリアに興味が湧いたら、まずは行動してみましょう

FASは、筆者が8年以上働いてきた実感として、上を目指す人に対しては自信をもって勧められる職業です。思い立ったが吉日、これを機にFASキャリア実現への第1歩を踏み出しましょう。

■簿記の基礎知識が既にある人→下準備としては十分です。まずは転職エージェントに相談してみましょう。エージェントの選び方と活用戦略はこちら

■簿記が未学習に人→FASは簿記知識を基礎にしたプロフェッショナルです。3ヶ月もかければ十分なので、本記事で解説した戦略を参考に、先ずは簿記の勉強を始めましょう。

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