経営企画職への転職市場は基本的に経験者採用です。転職を目指すのであれば、何らかの近隣業務で経験値を積む必要があります。
FASは経営企画職転職に生かせる経験を積むことができます(経営企画職との業務関連性が高い)。尚かつ、FASは未経験でも採用される可能性が経営企画職に比べて高いです。よって、経営企画職を目指す人にはオススメのキャリアステップといえます。
尚、FAS(フィナンシャル・アドバイザリー・サービスの略)は財務・会計・税務や経営計画等を専門とするコンサルタント職です。FASで数年の経験を積んだ人材は、経営企画職やPEファンド等の経営・金融職へのステップアップを多く実現させています。
筆者は、FAS歴8年の現役コンサルタント(独立済み)であり、出向の形で経営企画部の仕事も経験してきました。この記事ではその経験を踏まえて、経営企画を目指す方にFASをオススメする理由をご説明します。
FASは経営企画職と専門分野が近い
FASは主に会計・税務・財務・経営計画等を専門とするコンサルタントです。例えばM&Aにおけるフィナンシャル・アドバイザー(FA)や財務デュー・ディリジェンス(DD)、あるいは企業再生支援や経営改善支援、税務アドバイザリー等を仕事としています。
経営戦略策定や財務(資金調達等)、IR等を職掌とする経営企画職の仕事とFASの仕事は、下表の通り多くの部分で専門性が重複しています。このことから経営企画への転職を目指すにあたりFASのキャリアは極めて親和性が高いのです。
【経営企画業務とFAS業務の関連性】
担当業務 | 経営企画の仕事 | FASの仕事 |
---|---|---|
M&A | 当事者として交渉や案件コントロール FAS・弁護士等を起用 | FA、DD、バリュエーション等 ディール全体またはパーツを担当 |
財務(資金調達等) | 銀行・機関投資家との折衝 | FAや再生アドバイザーとして 顧客の資金調達交渉をサポート |
経営計画 | 社内から営業・財務数値等を取りまとめ 計画を策定(年次計画や中期経営計画) | 資金調達や企業再生等のために 外部交渉資料として経営計画策定を支援 |
予実分析 | 社内から財務資料やKPIを集めて実施 (主にIR・社内会議用) | DDや再生支援等における予実分析業務 |
FASは経営企画職よりも未経験採用されやすい。需要拡大が背景。
経営企画職は基本的に経験者採用です。他社の経営企画経験者はもちろんのこと、FASやPEファンド等の出身者を中心に採用されています。未経験者が採用されるには厳しい職種と言えます。
他方、FASの採用市場は遥かに未経験者が採用されやすい環境です。
FAS業界は最大手級はプライム上場企業も含まれており、新卒採用を始めとして未経験者も広く受け入れられています。その背景には、需要拡大と人手不足が挙げられます。
FASが未経験者を採用するのは、圧倒的な需要増・人手不足のため
FASが専門とする金融関連のコンサルティングは、近年の直接金融拡大の影響もあり需要拡大が続いています。それを受けFAS各社も、大手を中心に採用活動を活発化させている状況です。
各社としてもできれば経験者採用をしたいところです。しかし、経験者はそもそも採用市場に出てこず、いたとしても各社間で取り合いとなり、ままなりません。そこで未経験者も含めて採用しイチから育てる戦略を採用しているのです。
FASをステップとするなら短期集中の修行と割り切るべし。
FAS業界はコンサルティング業界の例に漏れず、厳しい競争と激務の世界です。
しかし早いうちにFASで研鑽を積み、マネージャー職も経験できたとすれば、それは将来において余りあるポータブルスキル(どこに行っても通用する力)となることでしょう。
事実、筆者自身もFASで身につけた経営に関する知見やビジネス遂行能力を基に、現在は独立するに至っています。数年は修行と割り切り、将来のために頑張ろうという意気込みはぜひほしいところです。このようなFASに乗り込むにあたり認識しておくべき事項については、以下の関連記事もご参考ください。
FASにおける目標は「マネージャー職への昇格」とするのが職歴・経験の両面で良い
FASで数年修行するとして、何を目指すべきか?筆者としてはマネージャー職への昇格を目標とすることをオススメしています。
マネージャー職は、コンサルティング業界では一般にヒラ社員から一つ昇進した職員であり、コンサルタントの登竜門とされています。「コンサルティング業界でマネージャーを経験した」と言えば、業界に詳しい人であれば「この人は実力がある人なのだな」と判断します。当然、最終目標である経営企画職への転職活動にも大いに有利になります。
また実際面においても、マネージャー職に上がれるということは、一つの案件(例えばM&Aのディール、調査・報告等)を自分の判断で完遂できるレベルに達していることを意味します。ビジネスマンとして今後上を目指すのであればぜひとも身につけておきたいポータブルスキルであり、それを身につけられる貴重な機会がFAS業務の場であるとも言えます。
経営企画職をネクストキャリアに見すえるなら、FASではM&Aか企業再生系の業務がオススメ
FASと一言に言ってもその専門領域は多岐に渡ります。例えばM&A関連でもFA、バリュエーション、デュー・ディリジェンス(DD)など様々な業務を受託しています。
FAS各社もこれらサービスごとに部署等を分割していることが多く、それぞれのサービス別に採用を行っています。そのため志願者としてはあらかじめどのサービスを志望するのか明確にしておく必要があります。
こと経営企画職をネクストキャリアとして念頭に置くならば、業務領域が近いM&AのFA業務か、ファイナンスから事業計画まで広範な分析・企画業務を執り行う企業再生業務を志望するのがオススメです。
FA業務:M&Aのディール全体のコントール
M&A(企業買収等)においてFA(フィナンシャル・アドバイザー)の役割は重要です。まずクライアントのニーズ(買収・売却)をきちんと理解してカウンターパート(取引相手)を見繕うところから始まります。更にクライアントと相手方のミーティングに参画して案件全体をコントロールし、諸条件の調整を行い譲渡成立までのサポートします。
経営・法務・税務など広範な専門知識とともにコミュニケーションスキルも求められるハードな仕事ですが、その分ビジネスマンとして得られる経験値も格段です。
経営企画職は自社のM&A案件のコントロールはもちろんのこと、予算編成や企画業務において、専門知識に基づき高度な調整能力が要求されます。このような背景からFASにおいてM&Aで実績を積んできた人材であれば、経営企画職として求められる人材に大きく近づくことができるのです。
企業再生業務:再生計画策定、財務モデリング、ファイナンス、折衝と盛り沢山
企業再生業務は、業績悪化に伴い借入金返済が滞っている企業に対して、私的・法的整理を行うサポートを行います。
財務状況・経営成績を正確に把握し、株主・債権者・経営者などステークホルダー間の利害調整を行いながら打つべき戦略を検討することがFASの主要な役割となります。高度な財務・会計スキルが求められる上、ファイナンス関連の折衝の重要性が高い仕事内容は、経営企画職が求める能力に直結するものになります。
また、再生計画の策定においては財務モデル(将来のBS/PLのシミュレーションを行うスプレッドシート)の作成が欠かせません。経営企画職の転職活動で「財務モデルが作れる」というスキルは非常に有力なアピールポイントになります。
FAS転職を目指すには、転職エージェントの活用が不可欠
FAS業界は一般世間からは遠い存在であり、業界もさほど広くありません。そのため業界・業務に精通している転職エージェントの活用は欠かせません。転職エージェントならどこでも良いわけではなく、FASに実績と知見のある会社を選ぶことが肝心です。
以下の関連記事に、このような要件を満たすエージェント企業を掲載しています。経営企画職について既にある程度調べている方なら準備は十分でしょう。まずはエージェント企業を選定して相談してみることをオススメします。