「FASに転職するには、公認会計士・税理士・金融機関出身のどれかである必要がある」という論調が一部見られますが、事実に即していません。
無資格・未経験・事業会社出身でも十分可能性があることは、データを見ても、筆者の経験からしても確信をもって言えます。
本記事では、そのような業界事情の背景を説明し、裏付けをしたいと思います。
(筆者について)税理士でも公認会計士でもなく業界経験もなかった状態から独立系FASに転職し8年が経ちました。FAS業界の実体験と業界人脈から得た知見をもとに、FAS転職に役立つ情報発信をしています。
有資格者は希少のため、FASのサービス展開には無資格者・未経験者の人手が必須
FASの転職市場において、有資格者(公認会計士または税理士資格保有者)やFAS業務経験者は、いまや奪い合いの様相です。「業界内で横滑りて移籍しているだけで年収が上がる」などと噂されるほど、高年収の提示も過熱気味であり、FAS各社の人材獲得競争は苛烈を極めています。
以前からFAS業界はコンサルの中では未経験者採用がされやすい分野(エクセル作業や資料往査など地道な下作業が必要な業務であることも一因)でありましたが、上記の市況を反映して、未経験者採用のチャンスは以前に増して広がっていると言えます。
ここでは独立系4社を例にとり、従業員構成データを見てみます。実データは記事末尾に掲載します。
FASファーム4社では、無資格者が半数以上を占める
個別に考察していきますが、まずは有資格・無資格の比率に注目しましょう。公認会計士をはじめとする有資格者数を全体から除いた比率を示しています。
会社名 | 有資格者率 | 資格分類されていない 構成員比率 |
---|---|---|
エスネットワークス | 50% | 50% |
コーポレート・アドバイザーズ ・アカウンティング | 44% | 56% |
AGSコンサルティング | 36% | 64% |
フロンティア・マネジメント | 13% | 87% |
この様に、少なくとも社員の50%が公認会計士・税理士でもなく無資格メンバーの構成となっています。
これは「公認会計士・税理士は転職に不利」ということではなく、「有資格者は人手不足であるため、資格保有者以外で補っている」という方が実態をよく表しています。
FAS業務の根幹は財務・会計周りのサービスであり、そういった業務に中心となってあたるのは公認会計士・税理士です。特に監査法人等でマネージャー以上や大手・準大手クラスのインチャージ(主査)を経験したような経験豊富な人材は極めて希少価値が高いのが現状です。
事業会社出身者も少なからず在籍している
フロンティア・マネジメント社のデータに事業会社出身者の項目があり、19%を占めていることが分かります。
また、同じく独立系のFASファームであるロングブラックパートナーズのHPにもバックグラウンド構成の図があり、23%が事業会社出身と示されています。(2022/4/22時点)
このデータは、FAS転職において、有資格・金融機関出身と比べ最も不利と思われる事業会社のバックグラウンドでもFAS転職が可能であることを示しています。
現代のFAS業務には、事業会社出身者も含め多様性が求められている
FASのコンサルタント全員が公認会計士・税理士であることが好ましいのか。
もっと言えば、無資格者は有資格者の補欠なのか。
筆者としては、そうは思いません。理由を述べていきます。
未経験者・無資格の強みは、異分野での経験とスキルで、有資格者にないバリューを発揮できること
確かにFAS業務の中心にあるのは会計・税務周りの専門業務ですが、現代のFASファームは周辺のコンサルティング領域にも業務を拡大し、顧客のLTV(ライフ・タイム・バリュー)を増大する戦略を採っています。
その業務領域は、例えば業務改善やハンズオン支援など、更には未知の分野でのクライアントサポートにも広がりつつあります。
そういった業務においては、資格有無以外のビジネスセンスやアイディアなど、全く別の能力も求められます。ファイナンスの専門家だけでなく、多様な経験を持つメンバーが一つのチームとなって業務に当たることが必要となるのです。
単純に人不足であり、作業要員が足りない
日本全体的な傾向ですが、とにかくFASにおいても人手不足です。
特にFAS業務は下作業としてのデータ分析やパンチング、パワポ作成など手がかかる業務が多く、手作業要員であっても是非人がほしいという状況になりつつあります。
特に有利となる資格や職歴がないのであれば、そのような状況に着目し、とにかく手作業や事務は得意という面をアピールして業界入りを果たすというのも現実的な戦略と言えます。
未経験者・無資格でも財務・税務の専門サービスで活躍できる
これは筆者の経験から言えることですが、資格ホルダーや金融機関出身ではなくても、財務・税務の専門分野で活躍できる可能性は十分にあります。実際にそのような方を業界内で多数見てきました。
「入社しても延々と雑用係をさせられるのではないか」といった懸念は杞憂であると言えます。
但し、もちろん入社後の勉強と努力によって各専門分野への知見を研鑽していくことが前提となることは言うまでもありません。
面接対策にも入社後実務にも役立つオススメ書籍を(関連記事)FAS転職希望者が事前に読むべき書籍。業務分野別に現役コンサルタントが厳選にピックアップしています。しっかりと勉強していきましょう。
未経験者のFAS転職成功のため、事前学習と仕事研究は徹底的に。
とはいえ、未経験・異業界出身は、公認会計士・税理士・金融機関出身に比べてFAS転職において不利なのは間違いありません。
事前学習と業界研究は徹底的に行いましょう。
事前学習:簿記の勉強を進めるべし
FASサービスの中心にあるのは財務・税務の専門サービスであり、その基盤となるのは簿記の知識です。未経験者でしかも簿記が分からないとなると、書類選考の通過は絶望的です。
業界への意欲を示すためにも事前学習をしっかりと行い、可能であれば日商簿記の資格を取得しましょう。書類審査がぐっと通りやすくなるはずです。
FASでの仕事における簿記の重要性や、勉強の進め方については、(関連記事)簿記知識とFASの密接な関連性。実務でいかに役立つか、書類選考対策も併せて解説。にて詳しく述べています。
仕事研究:仕事内容のイメージについてのピントを合わせる
FAS業界は世間一般にはなじみがなく、それゆえ入社後のミスマッチを起こしやすい業界です。
「会計・税務に関する専門サービス」程度の解像度では不十分です。
(関連記事)FAS(フィナンシャル・アドバイザリー・サービス)の概要にて仕事内容も含め詳細に説明しています。しっかり知識武装して選考に臨みましょう。
キャリア選択の不安や業界の負の部分にも目を向ける
FAS業界の仕事は一般的な職種に比べ時間的・精神的に厳しく、その分だけ得られるリターン(経験や金銭報酬)も大きい仕事と言えます。
筆者としては、このようなマイナスの側面もしっかり認識したうえで志望を固めることで、より価値の高い将来選択ができると考えています。(関連記事)FAS業界のキャリアのマイナスの側面、厳しさ、転職志望者が覚悟すべきことに、こういったネガティブな側面を詳しく述べています。ご興味があれば是非ご覧ください。
転職エージェントとのキャリア相談を早めに始めよう。但し、エージェント企業選びは慎重に。
転職エージェントは、キャリア相談や求人案件紹介を求職者が無料で受けられる有難いサービスです。
ここまで読んで理解できたのであれば、まずは転職エージェントの門を叩き、実現したいキャリアについて相談してみるのがいいでしょう。但し、次項目の通りどのエージェント企業を選ぶかは極めて慎重に行う必要があります。
未経験者のFAS転職成功には、適切なエージェントの起用が不可欠
FAS業界は一般の職業に比べ専門性・特殊性が高いため、転職エージェントについてもどの会社を起用するか?は吟味する必要があります。
FAS業界に関する知識を持つエージェントを起用し、「キャリアを実現するためにどの会社が良いか?」「どう対策を立てるか?」をきちんと議論することは、特殊な業界に挑む未経験者にとって極めて重要です。
以下の記事に、そういった観点から選定したオススメのエージェントと、その活用方法をまとめています。ぜひご活用ください。
(データ)独立系4社のバックグラウンド構成
ホームページ・IR資料から集計しました。
尚、(関連記事)【国内FAS】業界研究と企業一覧、転職先の選び方にて、企業一覧や業界研究を掲示しています。