FAS転職実現のためには、まず会社の存在を知らなければ始まりませんが、求職者の目線では情報が少なく意外と難しいものです。
特に異業種転職を目指す方にとって、FASファームは世間に広告を行っている会社も少ないため、ほとんどの会社は初めて聞く社名ばかりでしょう。
本記事では、異業界の方でもFAS業界を理解できるよう、FAS業界の会社列挙と、業界研究を行います。
(筆者について)税理士でも公認会計士でもなく業界経験もなかった状態から独立系FASに転職し8年が経ちました。FAS業界の実体験と業界人脈から得た知見をもとに、FAS転職に役立つ情報発信をしています。
※この記事は、FASの「会社」と「業界」に焦点を当てて解説します。具体的な業務内容を知りたい方は(関連記事)FAS(フィナンシャル・アドバイザリー・サービス)の概要をご参考ください。
FAS業界の全体像:階層構造が明確
FAS業界には国内にさまざまな企業が存在していますが、大まかには「Big4」、「独立系」、「税理士事務所系」に分類できます。
下図は簡略的に層構造を表現しています。転職難易度も上層に行くほど上昇しますので、ご自身の転職戦闘力を勘案して応募先を検討する必要があります。
※このあたりの経歴・年齢と応募先選定のバランス検討は、転職エージェントの力を借りることをオススメしています。(関連記事)FAS転職におけるオススメ転職エージェントと活用のコツもぜひご参考ください。
分類別に概要と特徴を解説します。
BIG4:大型案件を取り扱う監査法人系ファーム。FAS業界の雄。
「BIG4」は元々は四大会計事務所と呼ばれる、世界的に展開する大規模な会計事務所の総称です(国内用語ではなく、世界的にBIG4と称されています)。以下の4グループを指します。
グループ | EY | デロイト トウシュ トーマツ | PwC | KPMG |
---|---|---|---|---|
正式名 | アーンスト・アンド・ヤング | 同上 | プライスウォーターハウス クーパース | 同上 |
本拠地 | イギリス | アメリカ イギリス | イギリス | スイス オランダ |
国内 監査法人 | EY新日本有限責任監査法人 | 有限責任監査法人トーマツ | PwCあらた有限責任監査法人 | 有限責任あずさ監査法人 |
国内 FASファーム | EYソリューションズ株式会社 | デロイトトーマツファイナンシャル アドバイザリー合同会社 | PwCアドバイザリー合同会社 | 株式会社KPMG FAS |
直近期 売上高 | 364億米ドル | 462億米ドル | 424億米ドル | 321億米ドル |
これら4グループは、世界中の上場企業や非上場でもマーケットシェアが大きい会社のほとんどを顧客とするグローバルファームであり、各国で監査・会計・税務に関する専門的なサービスを提供しています。
日本国内においても同様であり、BIG4系FASファームは、業界内の雄と認識されています。
また、BIG4系は、FASファームとは別に、戦略・業務・IT等の総合コンサルティング会社もグループ内に抱えています(例えばPwCにおけるPwCコンサルティング合同会社、KPMGにおけるKPMGコンサルティング株式会社等)。似て非なる事業内容を展開する会社ですので、求職時は混同しない様に注意しましょう。
BIG4系FASの特徴
BIG4系FASは、所属するコンサルタントの能力や実績で他の追従を許さない実力を有します。
また、受け持つ案件も、新聞紙の一面に載るような国内大手企業のM&A、組織再編、企業再生などが中心です。それら案件は、アドバイザリーフィーだけで1件数億円から数十億円に上ることも珍しくありません。
上場企業に関連するような大型案件を取り扱いたいという希望がある場合、BIG4のどれかに入社することはほぼ必須と言えます。
Big4系FASは広域な分野を使うが、主戦場はM&A関連サービス
Big4系の特徴として、各ファームともFASがカバーする一通りのサービスラインを整えていますが、売上規模や強みなどの面ではM&A関連サービスが主戦場といえます。
フィナンシャル・アドバイザー(FA)としての大手・上場企業同士のM&Aにおける総合的なディールサポートや、トランザクションサービスとしてのバリュエーションや財務デュー・ディリジェンス、スキーム検討等が具体的なサービス内容です。
M&A関連はその他のFAS領域の業務と比べても収益性で群を抜いており、自然と各ファームとも力を入れている状況といえるでしょう。
クロスボーダー案件ではBIG4系が圧倒的に強い
昨今のM&A市場は、国内案件が増加傾向にあると同時に、クロスボーダー案件(国内企業が海外企業を買収、もしくは海外企業が国内企業を買収)も規模の大小を問わず活性化しています。
クロスボーダー案件では、相手先国の現地法律、税制、会計規則に対応したサービスを提供する必要があり、国内メンバーのみでの対応は困難です。
世界各国にメンバーファームがあるBIG4系は、ファーム間の国際連携が可能という点で圧倒的優位なネットワークを有しており、独立系の追随を許さない強みを発揮しています。
クロスボーダー案件を扱いたいという希望がある志望者は、Big4への入社が近道です。経歴を磨くとともに、英語の勉強(TOEIC、TOEFLでの高スコア等の獲得等)もしっかりと行い対策を行いましょう。
BIG4系FASの業界内のぶっちゃけポジション事情
Big4系が受け持つ仕事は、上記の通り国内最大級の案件が多いので、多くの独立系とは棲み分けが出来ている印象を受けています。
FASの仕事は、大きい案件が得意なら小さい案件ができる、とはならず各会社が得意分野を持って競っています。よって、一部独立系以外とは直接的なバッティングはせず、Big4内での案件の競り合いが多いというのが現状と言えます。
Big4が案件で接する相手は上場企業等の幹部が中心です。高学歴かつ教養高い相手を顧客とするため、コンサルタントにも相応の実力と、明確なバリューの発揮が求められます。
BIG4のコンサルタントは、いわゆる「経歴がきれい」な方が多い
Big4の入社難易度は独立系より明確に高く、それゆえ地頭など基礎的な能力に加えていわゆる「きれいな経歴」な方が自然と多く在籍しています。
例えば公認会計士・税理士資格保持、大手監査法人勤務、MBAホルダー、大手銀行勤務等、経歴面でアドバンテージがある方であれば見込みがあると言えます。
逆に職歴が不利な状況(異業種出身等)の場合、残念ながらBig4の採用試験突破の難易度は相当高く、書類突破の可能性は低いと言えます。20代前半や新卒など年齢でのアドバンテージがほしいところです。
独立系:最大手級はプライム上場も。FAS専業。小~中規模の案件が中心。
国際的会計事務所に属さない国内ファームという意味で独立系と呼んでいます。
独立系は、FAS事業を会社の中心に置く企業です。Big4が拾いきれないような小〜中型の案件を主戦場としていることが特徴です。クライアントの規模としては、年商1億円未満から上は500億円程度までと幅広い領域をカバーします。
日本の企業構成のほとんどは中小中堅企業であることを考えると、最もカバー市場が広い企業群と言えます。
国内独立系FASファーム(会計総合系)の一覧
独立系ファームに絞り、できる限り列挙します。求職者が社名を検索して会社を探す際などにご活用ください。
ここではM&A専業と、専門特化ファーム(例えば証券化専門、資産税専門等)は除外しています。また、従業員数は本記事更新日時点のホームページ掲載があったものを引用しています。
会社名 | 従業員数 | 備考 |
---|---|---|
山田コンサルティンググループ株式会社 | 923名 | プライム上場 |
フロンティア・マネジメント株式会社 | 285名 | プライム上場 |
アドバンスト・ビジネス・ダイレクションズ株式会社 | 17名 | ビジネスブレイン太田昭和グループ |
株式会社AGSコンサルティング | 480名 | |
ロングブラックパートナーズ株式会社 | 95名 | |
みらいコンサルティング株式会社 | 国内約200名、国外約100名 | |
グローウィン・パートナーズ株式会社 | 78名 | タナベ経営グループ |
J-TAP グループ | ||
株式会社FASコンサルティング | ||
株式会社コーポレート・アドバイザーズ・アカウンティング | 284名 | |
株式会社 社楽パートナーズ | ||
太陽グラントソントン株式会社 | ||
株式会社エスネットワークス | 260名 | |
みそうパートナーズ株式会社 | 31名 | |
株式会社青山トラスト会計社 | ||
G-FAS株式会社 | 旧社名:GCA FAS㈱ |
未発見の会社も多数あるはずです。お問い合わせまでご連絡いただければ、確認の上掲載させていただきますので、何卒宜しくお願い致します。
独立系の業界内のぶっちゃけポジション事情
属する企業が多く一口に表現することは難しいですが、互いに競いつつも、足下は案件が豊富にある為どこの企業も業績を伸ばしているのが現状です。
受け持つ案件の特徴は、クライアントの企業規模が小さいため、クイックかつ定型的に論点をまとめ上げるスタイルや、逆に工数をかけて会社・ビジネスの全容把握から結論を導くスタイルが多く見られます。
案件で接する相手は、中小中堅企業の社長、幹部が中心です。財務に明るい人物ばかりではないため、説明の分かりやすさや人当たりなど人間力もコンサルタントの実力として求められることが特徴的です。
BIG4がM&A関連業務中心であるのと対照的に、独立系の得意領域は多様
BIG4がM&A関連業務にウェートを置いていることと対照的に、独立系には特定のトランザクションや会計領域に特化している会社が存在することも特徴的です。(例えば不動産や証券などの特定の会計・税務処理やバリュエーション、PPA、企業再生など。)
よって求職者としては、志望分野が明確に決まっているのであれば、あえてこのクラスの会社に門を叩くのも有効な戦略といえます。
独立系のコンサルタントは、未経験からのたたき上げも多数
独立系の採用の特徴は、異業種や未経験からも広く採用を受け入れていることが挙げられます。
特に近年は案件増加による人て不足からその傾向はさらに強まっています。未経験で業界転職を狙う人にも狙い目と言えるでしょう。
(番外)上場企業グループの一企業・部門にてFASサービスを提供する企業
国内FASは独立系が中心であり存在感もありますが、一部上場企業グループの一企業・部門でFASサービスを提供する企業も存在します。
部門規模や配属の基準などは各企業によって異なります。面接の段階などでヒアリングすることをお勧めします。
会社名 | FAS部門 | 主な株主 |
---|---|---|
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 | コーポレートアドバイザリー部 財務アドバイザリー | 三菱UFJ銀行 |
税理士事務所系:顧問税務業の派生ビジネスとして活躍
独立した公認会計士や税理士が運営する会計事務所は、FAS業務をサービスラインに含んでいる場合があります。
主に顧問先の会社で必要になった場合にサービス提供を行いますが、場合によっては既存取引がない企業のアドバイザリーも担当します。
特徴としては、顧客のほとんどが顧問税務先ということもあり受託料が比較的低めであることが挙げられます。高度な財務計算は専門としていないこと多いので、そういった案件は会計事務所系ではなく独立系に仕事が振られる場合もあります。
税理士事務所系の業界内のぶっちゃけポジション事情
例外はあれど、ほとんどの事務所は副業的な立ち位置でサービスを提供しており、フィーも独立系に比べても低額である場合がほとんどです。
予算が十分に取れない案件などは、価格優位面で優れている税理士事務所がアドバイザーとして起用されることも珍しくありません。
FAS業界の最新の業況
2022年現在のFAS業界では、M&Aや企業再生等の需要拡大を受け、各社とも業績を伸ばしています。
IR資料で確認可能なFASファームの売上推移を以下に表示しています。確認可能な社数は少ないですが、順調に業績を伸ばしていることが分かります。
FAS業界の従業員1人あたり年間売上は、概ね2,000万円/人
FASの仕事は人が資本であるため、1人あたり売上高は重要な指標です。
上記のデータを元に売上が判明している会社の1人あたり売上高を計算すると以下の通りになります。
計算結果からも分かりますが、FASにおいては1人あたり売上高は概ね2,000万円程度が標準とされています。(案件処理のスタイルや組織により上下します)
会社名 | 売上 (a) | 従業員数 (b) | 1人あたり売上高 (a/b) |
---|---|---|---|
山田コンサルティンググループ株式会社 | 153.2億円 | 923名 | 16百万円 |
フロンティア・マネジメント株式会社 | 57.4億円 | 285人 | 20百万円 |
株式会社ビジネスブレイン太田昭和 | 291.6億円 | 1,564人 | 19百万円 |
FASにおいては、1人で月間200万円の売上を取れて1人前と言える
上記の通りFASにおける標準の売上高は年間2,000万円、1ヶ月にすると約167万円です。
ジュニアクラスのメンバーはこれほどのチャージはできない事情やバックオフィスメンバーの存在も考えると、1人前と呼ばれるには1ヶ月に200万円程度の売上を計上する必要があります。(チームメンバーを使っている場合は、当然にメンバー数×200万円/月がハードルです。)
月間稼働時間を160時間(8時間×20日)とすると1時間あたりのクライアントへの請求料金は12,500円です。FASコンサルタントとしてはさほど高い水準とは言えませんが、これほどの時給をクライアントに請求できるバリューを求められる仕事と言えます。
FAS業界規模の推定:不明点が多いが、2~3,000億円程度と試算
1人あたり年間売上が2000万円、未発見の会社の人員数も含めて全体人口を1.5万人(上表と既知率を仮定して推定)とすると、概ね2~3,000億円程度と算定されます。
※非公開の情報や業界企業全容が不明のため、大まかな推定になります。また、M&A仲介・FA系は算入していない想定です。
求職者としてFASファームを選ぶコツは、各社の強い分野を知ること
求職者として大事なことは、自分がどの種類の仕事に携わりたいかを考え、その仕事に強みを持つファームを選ぶことです。
FASファームと一言にいっても、各社強い分野、苦手な分野がある
FASの事業領域には、M&A、バリュエーション、企業再生、会計監査等、様々な業務が含まれていますが、すべてのFASファームがこれら全ての業務を行っているわけではありません。
(※FASの事業については、(関連記事)FAS(フィナンシャル・アドバイザリー・サービス)の概要に詳しく述べています。併せてご参考ください。)
多くのファームは、メインとするサービスラインがあり、その他に新たに取り組んでいたり副業的に行っているサービスラインが存在するという構成です。
会社概要に事業内容として掲載されていたとしても、その事業を現状ほとんど提供していなかったり、社内の一部だけで実施しているような場合もあります。
新入社員は大抵の場合、その会社のメインのサービスラインに配属される
ジュニアクラスの入社直後はたいていの場合、その会社がメインとしているサービスラインに配属されます。教育リソースの問題で、これは致し方ない事実です。
例えばM&A系の会社であればM&A系に、PPAの会社であればPPAのサービスにといった具合です。
よって、希望の業務があるのであれば、その業務をメインに置いている会社を選ぶべきなのです。面接などの場でよく確認をし、ミスマッチを避ける戦略を採りましょう。
M&A関連業務は多様化が進む。同じサービス名でも入社前に内容の確認を。
FAS系が提供するM&Aは、フィナンシャル・アドバイザーとしてのクライアントの交渉サポートをはじめとした総合的なディールサポートや、財務デュー・ディリジェンス(財務DD、FDD)といったトランザクションサービスが中心です。
他方、近隣業界としてM&A仲介業が挙げられます。こちらに関しては、日々営業活動を行い売り手・買い手の発掘とマッチングを日々行っており、営業職としての側面が強いサービスを提供しています。
FAS系でも仲介業務を提供している会社が増加しており、この境目はあいまいになりつつあります。入社前に業務内容をよく確認しないと、専門職と営業職という対極にある職業選択のミスマッチとなりかねません。
求職者としては、面接や転職エージェントとの面談の機会に実際の業務内容をよく確認する必要がありますのでご注意ください。
FASのキャリアに興味が湧いたら、まずは行動してみましょう
FASは、筆者が8年以上働いてきた実感として、上を目指す人に対しては自信をもって勧められる職業です。思い立ったが吉日、これを機にFASキャリア実現への第1歩を踏み出しましょう。
■この記事が理解でき、簿記の基礎知識が既にある人→下準備としては十分です。まずは転職エージェントに相談してみましょう。
■簿記が未学習に人→FASは簿記知識を基礎にしたプロフェッショナルです。3ヶ月もかければ十分なので、先ずは簿記の勉強を始めましょう。FAS転職を見据えた簿記の学習戦略はこちら